ここまでいったらパワハラです!パワハラ判例種類別16事例

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パワハラいうものは、線引きが非常に難しいと言われています。

実際裁判になり、判決が出ても微妙な状況の変化により判決が変わったりします。

どこまでがパワハラと認定されるのか。また、どのような状況であれば、パワハラと認められないのか。実際の裁判の判例を見て、その違いを検証しましょう。

 1、パワハラ判例・事例種類別16例

次にあげる判例・事例を8つの内容に分け、それぞれに2事例あげました。

単純なパワハラだけではない例もありますが、参考になれば幸いです。

その8つの事例内容とは以下のものです。

 では実際に、どういうパワハラが起こっているのか見ていきましょう。

参考書籍:ここまでやったらパワハラです!裁判例111選(労働調査会)

1-1.能力の低さを理由とするパワハラ事例

 1-1-1.能力の低さを職場全員にメールで送信〜損保会社メール叱責事件

(概要)

損保会社の課長代理としてサービスセンター(SC)に勤務する原告は、その部署のリーダーから所長(被告)に対し、力不足である旨のメールを送信され、これを受けた被告は、次の本件メールを原告及び職場の数十人全員に対し送信した。

「意欲がない、やる気がないなら会社を辞めるべきだと思います。当SCにとって迷惑そのものです。あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。これ以上迷惑をかけないでください」

これに対し原告は、本件メールは名誉毀損を害するパワーハラスメントにあたるとして、被告に対し慰謝料100万円を請求した。

(判決)(第一審、控訴審)

本件メール内容は、退職勧告とも取れる強い口調であり、会社にとって不必要な人間とも取れる内容である。上司の叱責としては相当強度のものと理解でき、侮辱的、表現において許容限度を著しく超えるため、不法行為と言える。

また、本件メールの目的は叱咤督促する趣旨で、その目的は是認されるものであり、パワハラの意図があったとまでは認められない。

不法行為の精神的苦痛を鑑みて、5万円が相当である。

(解説)

同じ職場にいながら、メールで叱責するのはやはり見せしめの趣旨が強いと思われる。しかし、パワハラの意図に関しては認められないとのことだが、名誉毀損にあたるとしているので、やはり違法には間違いはない。

面と向かって、個人に対して叱責するのが筋であると考えられる。

 1-1-2.人事考課の低さを理由とする雇止め〜航空会社客室乗務員雇止め事件事例

(概要)

期間1年の労働契約を2回更新している客室乗務員(原告)は、立ち放しの地上勤務後の乗務では安全上問題があると課長に抗議して翌日欠勤したが、その後抗議と欠勤について始末書を提出し、さらに業務安全読本を紛失して始末書を提出した。原告は面接において、欠勤日数が多いこと、始末書を二度提出していることを指摘され、「135人中107位、ランクC」と評価され、新年度契約を更新しない旨通告された。

原告は被告に対し、「会社都合により一方的に契約満了とされたから退職する」旨の退職届を提出したものの、被告は原告の抗議に対する報復として業務評価を意図的に低く抑えて雇い止めを断行したものであるから、同雇い止めは無効であるとして、被告における賃金と再就職後の賃金との差額及び慰謝料100万円を請求した。

(判決)

原告が疲労状態での乗務に不安を感じたという点は理解できなくもないが、だからといって抗議目的で欠勤までするのは行き過ぎであり、一定のマイナス評価を受けてもやむを得ないものと考えられる。原告の評価について

  • カウンター業務支援に抗議して欠勤したことを提出したこと
  • 業務安全読本を紛失して始末書を提出したこと
  • 年間の欠勤日数は18日に及んでいたこと
  • 被告が契約更新に当たって重視している社会人的資質項目の評価では135人中134位であったこと
  • 雇用契約更新の基準は妥当でないとは言えないことの
  • 各項目についての評価が恣意的になされたとは認められないこと

これらのことから原告は一定のマイナスの評価を受けざるを得ないとしている。そのため被告の不法行為は成立しない。

(評価)

疲れなどがでやすい業務であるならばやはり安全面には充分考慮する必要があるが、抗議の意味での欠勤は社会人としては許されることではない。

判決の通り、契約更新にあたって、原告がその資質を欠いていると判断せざるを得ない状況ではあったのであろう。よってパワハラとは断定できない

 1-2.仕事上の失敗を理由とする事例

 1-2-1.実績、業務上の違反の発覚を苦に自殺〜北海道(銀行員)自殺事件事例

(概要)

被告銀行で入行10年目の行員甲は、投資信託の販売目標に達せず、会議の場で販売実績の質問に答えられなかったため、支店長から厳しい注意を受けたほか、引継書を提出せずに休暇を取ったとして上司から注意を受けた。甲は、他社からファームバンキングサービスの解約の申し出を受けたにもかかわらず、禁止されている立て替え払いを行ったところ、それが発覚して必要書類を求められたことから、そのまま銀行立ち去り、その3日後に自殺した。

甲の父親(原告)は、帰国における業務が甲に過重な負担を強いるものであり、甲はその負担に耐えきれずにうつ病に罹患して自殺したとして、被告に対し、総額1億3,000万円の損害賠償を請求した。

(判決)

支店長等が甲に対して会議で行った指導は相当厳しいものと推認されるものの、甲に対して限度を超えた過剰に厳しい指導を行った事実を認めることができない。また甲の業務や言動に関して特に異常な点は見受けられなかった事からうつ病に罹患していたと認めるのは困難であった。

甲が社会通念上相当な範囲を超えた過剰な業務を負担していたとまでは認められず、本件立替え払いの発覚について悩み、自殺に至ったとしてもあくまでも甲の個人的な考え方や受け止め方によるものであり、業務自体との相当因果関係をみとめることはできない。

甲が軽度のうつ病に罹患し、それも自殺の一因であるとしながら、被告において甲の自殺の危険性まで認識し得なかったとして原告の控訴を棄却している。

(解説)

入行して10年目の中堅行員に実績を求める。これは通常のことであり人格を攻撃するような言動は認められず違法性はない

部下に対する叱責、どこからがパワハラにあたるかというのは非常に難しい問題である。部下によりどれだけ傷つくかが違ってくることは予想されるが、それを正確に予見することは非常に困難である。

よって今回はパワハラとは認識されず、支店長等の指導の範囲内にあったとされるが、自殺に至ってしまっている点は、情に苦しむところである。

1-2-2.接触事故を理由にバス運転士が炎天下で除草作業〜神奈川(バス会社大和営業所)制裁事件事例

(概要)

バス事業を営む被告会社に運転士として勤務する原告は、路線バスを運転中に接触事故を起こしたために、営業所長(被告)から営業所内の除草作業を命じられ(第一業務命令)、8月に14日間これに従事した。被告はさらに四日間、原告に対し研修を行い、その中で服務規程の読習、書き写しをさせた上、添乗指導をうけることを命じた。(第二業務命令)原告は翌月、独車試験に合格し通常業務に復帰した。

原告は、本件接触事故について自分に責任がないにもかかわらず、十分な調査をせずに原告の責任と決めつけ、第一業務命令を発したこと、勤続5年以上の運転士である原告に対する第二業務命令は、見せしめ、嫌がらせであることを主張して、被告らに対し慰謝料200万円を請求した。

(判決)

原告には交通法規違反がないことを考慮すれば、本件事故における過失はないと認められる。自家用車の運転手がドアをロックしないで路肩に駐車したまま席を離れたために、ドアが開いてバスがこれに衝突したものであるが、接触に気づかなかった点については、原告にも過失があるとして、下車勤務の命令自体は違法とは言えない。本営業所の相当の面積に渡り雑草が生えており、また除草作業専従作業員もいないことから、下車勤務の除草作業は必ずしも認められないものではない。

しかし、炎天下での作業であり、また作業を終了するまで期限や作業範囲を指定したことはなく、また、校内の除草作業は必要ではあったとしても、事故の再発防止に役立つとは思えず、むしろ恣意的な懲罰の色が強い。

被告所長としての裁量の範囲を逸脱した違法な業務命令で不法行為であるとし、慰謝料60万円が相当である。

第二業務命令は、運転技術の矯正を目的としており、適法妥当なものである。

(解説)

運転士が事故を起こした場合は、一旦下車勤務をさせ、研修を行うことは必要な処置であると言えるだろう。過失を認め、下車勤務自体は適法とされたが、下車勤務の中身は炎天下の中での作業により、熱中症の危険を伴うものであり、また、事故の再発防止には到底繋がるとは思えず、パワハラ不法行為は妥当と判断されたのは当然であろう。

 1-3.協調性の欠如、ルーズな勤務等に対する事例

 1-3-1.勤務態度の悪さ、協調性の欠如を理由とする退職〜損保調査会社叱責退職事件事例

(概要)

損害保険の調査、損害額の査定等を業とする被告会社(反訴原告)に勤務する原告は、顧客との査定のトラブルにより、部長(被告)から直接注意を受けた。

原告は、日頃から協調性に欠けるとの評価を受けていたところ、査定をめぐるトラブルの際、被告から「テメェ、一体何様のつもりだ、責任を取れ」、「親父にも迷惑がかかるぞ」などと恫喝されて退職を迫られたこと、被告は、原告が大阪の研修部署に異動してからも仕事を与えず、消防法違反の内部告発を妨害し、昇進試験の受験を妨害したこと、数ヶ月後にさらにサービスセンター(SC)移動を命じ、それに絡んで誹謗中傷をしたことなどのパワハラ行為を行い、それによって原告は給食を余儀なくされ、休職期間の満了をもって退職させられたとして、被告会社との雇用関係存在の確認と、被告らに対する賃金1053万円余、治療費39万円余、慰謝料500万円、弁護士費用200万円の支払いを請求した。

(判決)

原告の研修部署への異動が、対人折衝のない部署への異動を図ったことは明らかであるが、それなりの課題は与えられており、原告作成の資料を社内で活用したことが認められるから、全く仕事を与えなかったとの原告の主張は認めがたい。

消防法違反となる量の塗料が研修部署に保管され、これを原告が上司や被告に進言したこと、原告が上記法違反や作業結果を被告会社や親会社に送付したこと、これを対し被告会社社長が直接原告に電話をかけて原告の精神的疾患を気遣ったことが認められ、事実を握り潰そうとした事実は認められないから、原告に対する不法行為は認められない。

原告を研修部署から5ヶ月でSCに移動させたのは、退職者補充の必要があったこと、研修部署では上司が原告の対応に参っていたことによるものであるから、懲罰的意図は一切なかったと認められる。

原告のSCAの異動の内示に際し、被告は原告のおよそ上司に対すると思えない態度に腹を立て、翌日SC次長に、「あの馬鹿」「あんなチンピラ」という表現のメールを送付しているが、原告を特に陥れようとする内容ではなく、パワハラとは認められない。

したがって、上記異動は充分合理性が認められ、不合理な差別的取扱いを行なったとは認められず、その他不法行為等を構成するような実は認められない。

(解説)

原告は入社試験の成績は非常に良かった反面、激昂しやすく協調性に欠けるとの評価をうけ、行く先々でトラブルを起こすことから、上司はその扱いに苦慮していた模様である。ただ人事評価では被告は原告に対し「良いものを持っており時間をかけて教育したい」とコメントしており「論外」といった存在とまでは見ていなかったようである。

唯一正当性をうかがわせるものは、消防法違反についての通報であるが、違反の程度が不明であるし、正義感に基づくものか、不満の会社のあら探しなのかの判断が難しい。

原告は、被告らのパワハラによってPTSDに罹患したとして、休職し、休職期間満了をもって退職となったが、原告のトラブルメーカーぶりと異動の内示にあたり、イスにあぐらをかき、飲み物を飲みながら話を聞く。また内示に怒って捨て台詞を吐くなどの態度が続き、被告らの叱責は基本的には正当と考えられる。パワハラではないとの判決である。

 1-3-2.ずぼらな部下への叱責でも行き過ぎれば違法〜電気会社F工場反省書強要等事件事例

(概要)

電気機械器具製造等を業とする被告会社に勤務する原告は、サークル活動等のため次第に残業しなくなったところ、製造長である被告や作業長らから、ビラの配布、機械等の片付けの不備、作業日報の不記載、作業中の居眠り、作業手順の誤りによる機械の故障、連休の取り方等について叱責され、反省書の作成を求められるなどしたことから、心因反応と診断され、半月の間欠勤した。

原告は、被告らの言動により欠勤を余儀なくされたとして、賃金の不払い分及び慰謝料500万円を、被告及び航空会社に請求した。

(判決)

製造長は、その所属する従業員に対し、始末書等を求めていることもできるが裁量権の濫用にわたる場合は、違法性を有すると解される。

原告はスポット溶接機の使用方法を教わりながら、その手順を覚えずにバルブを締め、これによって溶接機が故障し、被告会社は数十万円の損害を受けたが、その責任は原告にあるからに、被告が原告に反省書を求めたのも当然である。

原告は、年休を当日取得する場合、被告は自分に直接承諾を得るよう指示し、これについて原告に始末書を求めたが、それまで原告は年休の取り方を注意された事はなく、被告の指示に従って態度を改めたのであるから、執拗に始末書の作成を求めたのは行き過ぎであり、裁量の範囲を逸脱したものである。また、被告が作業長の報告を受けて、原告の後片付けの時間を計ろうとし、前日の後片付けの再現を求めたのは、裁量の範囲を逸脱したものである。

以上、過誤について執拗に反省書等を求めたり、後片付けの再現を求めた被告の行為は、その心情には酌むべきものがあるものの、裁量の範囲を逸脱し、違法性を帯びるものと言わざるを得ない。

原告の心因反応の原因は、被告の違法行為にあると解されるから、被告及び被告会社は、これによる原告の精神的損害を賠償する義務がある一方、原告は仕事に対して真摯な態度で臨んでいるとはいい難いところがみられ、このため被告の過度の叱責や執拗な追及を自ら招いた面もあることは否定できないから、慰謝料は15万円が相当と認められる。

(解説)

原告の勤務態度には相当な問題があり、上司である被告がこれについて非常に苛立ちがあったことがみれる事例である。

本件では、心因反応に罹患して休業し、その慰謝料を請求したものであるが、自分が蒔いた種である印象が強い。

しかし、被告に対し裁量権の逸脱を認め慰謝料の支払いを命じている。いかなる叱責でも許されるわけではなく、過ぎると違法となることを示した事例であり、不真面目な態度をとる部下を持つ上司は参考にすべき事例であると言える。

 1-4.使用者や上司に対する批判事例

 1-4-1.電話対応をめぐるトラブルによる肉体労働の配転〜自動車タイヤ等販売会社女性従業員配転事件事例

(概要)

自動車タイヤの輸入販売を業する会社(被告)で事務作業に従事する原告は、電話の応対をめぐって社長と口論になり、解雇を告げられた。

原告はこれに納得せず、労働組合に加入して仮処分の申し立てをするなどした結果、解雇は撤回されたが、原告はこれまで女性が就いたことのないタイヤ梱包作業等の肉体労働に配転されたほか、机と椅子をタイヤ梱包場に移され、事務所の出入りを禁止された。

原告は、本件配転命令は原告に対する報復措置であって無効であるとして、タイヤ梱包作業等に従事する義務を負わない地位にあることの確認と、精神的損害に対する慰謝料を請求した。

(判決)

主としてパソコン作業に従事していた原告について、電話対応の手際を理由に配転する必要性はそもそも乏しく、原告の対応に殊更問題があったとも認められない。原告の配転の業務上の必要性を見出すことはできない。

タイヤの梱包作業や積み下ろし作業は体力を要し、女性である原告には困難な面があることは否めず、業務上の必要性を肯定することは困難である。

被告としては原告に対する嫌悪感が収まらず、できるだけ警告を事務所から遠ざけ、不本意な仕事を与えて、あわよくば孤立感を感じた原告が自主退職することも意図して本件配転を命じたというべきであり、このような不当の動機をもってなされた本件配転命令が権利の濫用として無効というべきである。

被告の行為は、指示命令権の範囲を超え、社会的に許容された範囲を逸脱する行為として不法行為を構成し、慰謝料として50万円、弁護士費用として5万円を認める。

(解説)

配転にあたっては業務上の必要性が存在しない場合または業務上の必要性が存在する場合であっても、当該配転が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、もしくは労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき、権利の濫用に当たるとされる。

この事件は、女性を外作業の肉体労働に配転したものだが、現在では妊産婦を除く女性については、ごく一部の業務を除いて就業制限がなくなっているから、女性を本件のような肉体労働につけること自体が法律上可能である。

特定の従業員の席を他の従業員から隔離する事例はかなり見られるが、こうした行為は、通常見せしめ・嫌がらせと受け止められ、よほどの事情がない限り正当とは認められないので、注意が必要である。

 1-4-2.労基署への申告等を理由とする深夜勤務への配転〜運送会社女性従業員配転・懲戒解雇事件事例

(概要)

運送会社(被告)で事務管理業務に従事する女性従業員(原告)は、女性従業員の年齢給についての賃金規定の定めが男女差別であるとして労基署に申告し、同署は被告に対し、賃金規定の改定と賃金の遡及是正を勧告した。その後、被告は原告を事務管理業務から外し、以前従事していた2トントラックの乗務に配転し、さらにその2年半後、原告を午後6時から午前3時までの深夜勤務を常態とする係に配転を命じた(本件配転命令)が、原告がこれを拒否したことから、原告を懲戒解雇処分とした。

これに対し原告は、本件配転命令は労働契約に違反すること、労基署への申告に対する制裁という不当な動機・目的でなされたものであることから無効であり、その拒否を理由とする本件懲戒解雇も無効であるとして、従業員の地位の確認と賃金の支払いを請求した。

(判決)

原告が正社員に登用された平成9年1月当時、改正前の労働基準法は女性労働者の深夜勤務を原則として禁止していたから、労働契約の内容として、原告を深夜勤務に従事させないとの合意が成立していたと認めるのが相当である。したがって、本件配転命令は、原告の同意がない以上その効力を有しない。

原告は被告の賃金規定が男女差別であるとして労基署に申告し、労基署が被告に是正勧告したこと、原告が申告したとの疑いを持たれて被告との間で軋轢が生じたこと、原告は年齢給の遡及是正に係る請求権の放棄を強く迫られてこれに応じたこと、その直後に被告は原告を事務管理業務から外したこと、その頃から被告の役員や幹部社員が原告に厳しい態度をとるようになったこと、その後被告が原告に本件配転命令を発したことが認められる。この事実に照らすと、被告は原告が労基署に申告して以降原告に厳しい態度で対応してきたことが認められ、喫煙についての原告の申し入れに対する「そういう人は夜勤に行くか辞めてもらうしかない」旨の発言を勘案すると、本件配転命令は、労基署に内部告発したり、権利主張をしたりする原告に制裁を課する動機・目的による人事と推認される。

原告は、従前短期間夜勤に就いた際、健康を害する恐れを実感したことがあって本件配転命令を拒否したと認められるから、本件配転命令は原告に対し社会通念上甘受すべき程度を著しく超える不利益を課するものといえ、無効である。

(解説)

本件の争点は、本件配転命令が原告の労基署への申告に対する報復の目的でなされたものか否かという点であるが、配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたとの要件に該当することから、無効となることは当然と思われる。

原告は、日頃から職場の喫煙について是正を求めており、そうしたことも含めた日頃の確執が本件配転命令さらには懲戒解雇につながったものとみられるが、原告の主張内容は真っ当と思われる。本件配転命令及び懲戒解雇の正当性を窺わせる余地は認められない。パワハラ認定。

 1-5.具体的な業務命令違反を理由とする事例

 1-5-1.ノルマ不達成を理由とする転勤命令拒否および解雇〜コンピューター販売等会社転勤拒否解雇事件事例

(概要)

コンピューターの販売、リース等を業とする会社の京都支社に勤務する原告は、支社長Aと考えが合わず、Aから無理なノルマを命じられたほか、有給休暇を申請すると、結果を出してから休めと却下され、その後Aに暴言を吐いたとして自宅待機を命じられた。

原告はその4ヶ月後、メニエール病で休業し、2ヶ月後に職場復帰したが、めまい発作を防ぐため残業しないようにしていた。その1年余り後に赴任した新支店長Bは、原告の売り上げが伸びないのは意欲や努力が欠けているからであり、他の従業員との協調性もないと判断し、原告に大阪支社の転勤と主任からの降格の発令をしたところ、原告は辞令の受け取りを拒否し、京都支社に出勤し続けた。そこで被告は、原告に即時解雇を通告し、解雇予告手当を提供したが、原告がこれを拒否したため、業務命令違反等を理由に原告を解雇した(本件解雇)。

これに対し原告は、勤務地を京都に限定する条件で採用されたこと、長時間通勤は無理であって、転勤拒否を理由とする本件解雇は無効であることを主張して、地位の確認等を求めた。

(判決)

原告は、ここから法的根拠がないのに自宅待機命令を受け、その間にメニエール病に罹患したため、職場復帰した後はめまい発作が起こらないよう注意していたこと、メニエール病のため仕事に支障が生じるかもしれない事は周知されていたこと、被告が原告につき、飛び込みによる会計事務所の新規開拓の仕事に専任させており、この売り上げはもともとわずかしか期待できなかったものであったこと、大阪支社の通勤は1時間40分以上要するが、病気のためこのような長時間通勤に耐えられるか疑問であることの諸点を勘案すると、本件勤務命令は、転勤命令権の濫用であって許されない。原告は、本件転勤命令後も大阪支社に出勤しなかったが、右命令が許されない以上、無断欠勤とは言えないから、これを理由とする本件解雇も無効である。

控訴審では、本件転勤命令及び本件解雇を権利濫用に当たり無効としている。

(解説)

原告は、以前の大阪支社勤務時には、社長らから表彰を受ける等の優秀な業績も上げていたが、異動後の京都支社で支社長との折り合いが悪く、業績の期待しにくい飛び込み営業活動と達成困難なノルマを命じられ、有給休暇取得の妨害や、これに対する暴言を理由とした自宅待機など立て続けの嫌がらせを受け、それもメニエール病の一因になったものと思われる。

原告は、その後は仕事に消極的で、協調性に欠ける面があったようだが、元々は優秀な業績をあげていたことからすれば、こうした原告の姿勢は、上司の嫌がらせによる面が大きいと思われる。

新支社長も、前任者同様、業績不振の責任を専ら原告にかぶせ、京都支社から追放することを主たる目的として大阪支社の転勤を命じたものとみられ、権利の濫用として無効であると思われる。

 15-2.男女別トイレを求めて転勤拒否〜即席飲料製造会社等配転拒否事件事例

 (概要)

被告会社の女性タイピスト(原告)は、A出張所の配転を打診されたが、同所にはこれまで女性がいなかったこと、狭隘であること等を理由にこれを拒否した。その後、係長は原告に仕事を与えず、原告に対し「トイレ以外はうろうろするな」、「今週は一体何をするのか」等繰り返し嫌味をいい、原告の席を課長席の前に置くなどした。

原告は、本件仕事の取り上げおよび嫌がらせの差し止めを求めて仮処分を申し立て、その申立書の中で、配転拒否の理由としてA出張所には男女別トイレがないことを挙げた。被告は、当初の打診から約1年後、原告にA出張所への配転を命じたところ、原告は、本件配転命令は業務上の必要性がなく、原告に不利益を与える意図で行われたものであって無効であると主張するとともに、違法な配転命令、嫌がらせ行為等により精神的苦痛を受けたとして、被告に対し慰謝料500万円を請求した。

 (判決)

使用者が労働者に対し、いかなる業務を担当させるかについては裁量が認められ、正当な理由に基づき一時的に業務をさせない措置をとることも、雇用関係当事者間の信義則に照らし合理的な範囲にとどまる限りは適法と解すべきである。

しかし、業務を指示しない措置が不法な動機に基づき、又は相当な理由もなく、雇用関係の継続に疑問を差し狭める程度に長期にわたる場合等、信義則に照らし合理的な裁量を逸脱したと認められる場合は違法性を帯び、不法行為を構成するものと解される。

被告の原告に対する当初配転予定日以降1年近くにわたる本件仕事取り上げ及び嫌がらせは、原告に対する加害の意図をもってなされ、合理的な裁量を逸脱していることは明らかであるから、不法行為を構成し、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、60万円が相当である。

当初の配転内示当時、資材課では女性社員2名中1名の余剰人員は生じ、他方A出張所から女性事務員の配置が要望されており、原告が同所に赴任して以降、事務所不在による顧客の苦情が解消するとともに、男子もセールス活動により多くの時間を取ることができるようになったことからすれば、同所において女性事務員を必要とする状況が続いていたと認められ、本件配転命令には業務上の必要性があったと認められる。

A出張所のトイレは男女の別がなかったが、男子従業員は日中外出しているため、原告にとってトイレの使用をはばかられる状況ではなかったから、A出張所において、社会通念上許される範囲を超えて原告に不利益が生じたと認めることはできない。

(解説)

本件のポイントは、仕事はずし及びいやがらせの言動が不法行為を構成するか、配転命令が正当と認められるかの2点である。

仕事外し及び課長らの言動は、配転に応じない原告に精神的苦痛を与えることを目的とした措置であるとして不法行為を認めているが妥当な判断であろう。

本件配転命令自体は、業務上の必要もあり、不法な動機・目的も見られないことから正当と認め、この点では原告の請求を退けているが、これも妥当とみられる。一部のみパワハラ認定の線引きがされた例である。

 1-6.身だしなみ、服装を理由とする事例

 1-6-1.「女性の容姿で出勤」を理由に懲戒解雇〜性同一性障害者解雇仮処分申し立て事件事例

(概要)

性同一性障害の診断を受けた債権者は、勤務する会社(債務者)に対し、①女性の服装で勤務したい、②女性用トイレおよび更衣室を使いたい旨申し出、これを拒否されたことから配転拒否と回答し、出社を拒否した。債権者は債務者から送付された配転辞令を破棄し、抗議文とともに債務者に送付したが、その後辞令に従う旨の謝罪文を送付した。

その約2週間後、債権者は女性の服装、化粧をして配転先の席に着いたところ、債務者から自宅待機命令を受けた。その後も女性の容姿で出社する債権者に対し、債務者は女性の服装をしないとする命令に従わない場合は懲戒処分を検討する旨通知したが、債権者は裁判所に懲戒処分の差し止め命令を求め、女性の容姿で出社し続けた。

債務者は債権者に対し、懲戒解雇通知書を送付したところ、債権者はその無効を主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。

(決定要旨)

債権者は本件申し出が受け入れられなかったことを主な理由として配転を拒否したもので、正当な理由がなく、懲戒解雇事由に該当するが、債権者は謝罪文を送付し、配転先で在席しているのみならず、債権者の性同一性障害に関する事情に照らすと、配転命令拒否が懲戒解雇に相当するほど重大かつ悪質な企業秩序違反と言うことはできない。債権者は、従前は男性の容姿をして就労していたが、初めて女性の容姿での就労を申し出、突然女性の容姿で出社したものであり、社員はこれにショックをうけ、強い違和感を抱いたものと認められる。そして、社員の多くが債権者の行動の理由、性同一性障害についてほとんど認識がなかったであろうことに照らすと、社員や取引先等の相当数が嫌悪感を抱く恐れがあることが認められ、債務者が社内外への影響を憂慮し、当面の混乱を避けるために、債権者に対して女性の容姿で就労しないように求めること自体は一応理由がある。

しかし、債権者は本件申し出をした当時には、精神的・肉体的に女性としての行動を強く求めており、他社から男性としての行動を要求されると多大な精神的苦痛を被る状態にあったということができるから、債権者が債務者に対し、女性の容姿での就労を求めることは相応の理由があると言うべきである。そして、債務者において、本件申し立てに基づき、双方の事情を踏まえた適切な配慮をしてもなお女性の容姿をした債権者を就労させることが、企業秩序又は業務遂行において著しく支障をきたすと認めるにたる疎明はない。

以上によれば、債権者による本件服務命令違反行為は、懲戒事由に当たり得るが、懲戒解雇に相当するまで重大かつ悪質な企業秩序違反と認めることはできない。 

(解説)

これは平成14年の裁判例であるが、性同一性障害に対し裁判所の判断に苦慮したことがうかがえる。双方の言い分も一定の合理性があり、服務規律命令違反ではあるものの懲戒解雇に相当するほどではないと結論付けているが、会社としては相談を受けやすい雰囲気を作ること、また債権者も早めに自らの障害について相談はできなかったかということを感じさせる一件である。

 1-6-2.長髪、ひげを理由とする窓口業務外し〜郵便局身だしなみ基準事件事例

(概要)

原告は、口ひげ(唇の幅)およびあごひげ(唇の幅で約1cm)を生やし、引っ詰め髪にしていたが、灘郵便局へ配転が決まるまでは、これについて注意をうける事はなかった。原告が灘局に赴任すると、A課長及び後任のB課長らは、髪を切り、ひげをそるよう執拗に指導したが、原告はこれに応じなかった。郵政公社(被告)では、統一的な「身だしなみ基準」を定め、「長髪は避ける」、「ひげは不可とする」とした。

郵便課(内勤)の業務内容は、「窓口」、「発着」、「特殊」、「通常」の4種類、勤務時間帯は、「早出」、「日勤」、「夜勤」、「深夜勤」の4種類があったところ、原告は「特殊」業務の「夜勤」のみ命じられた。

原告は、身だしなみ基準に違反していないこと、「特殊」業務、「夜勤」のみに就かせることは人事権の濫用であり、違法な人事評価により職能資格給を停止させれたとして、被告に対し、手当て損害額のほか、慰謝料150万円を請求した。

 (判決)

被告が新たに身だしなみ基準を定めた事は一定の合理性が認められるが、労働者が自己の髪型やヒゲ等に関して行う決定は、本来個人の自由に属する上、これに対する制約が勤務時間を超えて私生活にも影響を及ぼすものである。

郵便窓口での利用者は、職員が特別に身なりを整えて応対することまでは期待していないから、男性の長髪、ひげを不可とするのは「顧客に不快を与えるようなヒゲ及び長髪」に限定すべきである。したがって、整えられた原告の長髪及びひげは、いずれも公社身だしなみ基準が禁止する男性の長髪及びひげには該当しない。

被告が原告を「特殊」業務の「夜勤」にのみ担当を指定したことは、裁量権を逸脱した違法なものと言うべきである。また、課長らの原告への指導は長髪及びひげは一切認めないとするもので、この指導は違法というべきである。

原告に「特殊」業務のみ担当させることは、職務経験を広げる機会を喪失させ、加えて原告は上司からひげをそり、髪を切るよう繰り返し求められたことにより、一定程度の精神的苦痛を受けたと認められるから、慰謝料は30万円が相当である。

 (解説)

男性の長髪及びひげを禁止することを再三にわたって執拗に指導したことの是非が争われた事例である。そのひげ及び長髪が整えられたものか否かを判断基準とし、原告のそれは整えられたものであるとして、原告の上司らの対応の違法性を認めている。すなわち、パワハラ認定である。

髪型やヒゲなどについては服装と異なり、勤務時間と私的な時間とで区別できない点で判断の難しい問題であると思われる。両者の接点として「整えられた髪型、ひげ」を許容される要件としてあげているものと考えられる。

 1-7.会社の指導や体質の改善がなされなかったための事例

 1-7-1.安全点検作業に抵抗して炎天下作業〜JR西日本吹田工場(踏切確認作業)事件事例

(概要)

従前、被告会社吹田工場では安全意識に問題があると指摘されたことから、同工場の各職場で安全点検したところ、踏み切り通行において安全確認が励行されていない事象が5件報告されたほか、立て続けに労災事故が月間3件ずつ発生していた。

こうしたなか、被告会社の職員で国労組合員である原告甲および同乙は、警報機の稼動中に踏切を渡ったところ、安全衛生を所管する総務課長(被告)に、「わたるな、危ないやろう」、「あほかお前らは」などと制止され、これを無視して横断したところ、原告甲は被告に腕を掴んで強引に引っ張られ、これを振りほどこうとして手首に擦過傷を負った。被告は注意の仕方に好ましくない点があったとして支社長から注意受け、原告甲に対して謝罪したが、その後原告らは、それぞれ数日間、8月の炎天下での作業(本件作業)に従事させられた。

原告甲は本件作業の強要と手首の負傷、原告乙は本件作業の強要を理由として、それぞれ被告らに対し165万円、110万円の損害賠償を請求した。

(判決)

本件作業は、真夏の炎天下で、日よけのない約1メートル四方の白線枠内で、終日踏切り横断者の指差し確認状況を監視、注意するものであって、著しく過酷なもので、労働者の健康に対する配慮を欠いたものと言わざるを得ない。また本件作業が、従前おこなわれていた定点監視作業とは、監視時間等の点で内容を異にするものであること、原告らの本件作業の実施実績は支社に報告されていないことなどをあわせ考慮すれば、原告らの本件作業は、使用者の裁量権を逸脱する違法なものであったと言わざるを得ない。

被告の行為は、上司に対する原告甲の態度を質すためのものであるが、嫌がる同原告の腕を3回もひっぱって事務所に連れていこうとする行為は正当な業務指示とは言えない。被告による本件暴行は、原告甲の「あんた」と言う発言に起こったことから発したものであること、本件障害は比較的軽いこと、被告は原告甲に謝罪していることなどを総合的に考慮すれば、本件暴行による慰謝料としては5万円が相当である。また、本件作業内容が過酷であること、本件作業に従事した期間を総合考慮すれば、慰謝料等は15万円が相当であり、原告乙についても、本件作業の内容に加え、原告甲よりも1日多く従事していることなどを総合考慮し、慰謝料等20万円が相当である。

(解説)

鉄道外車にとって安全の確保は最優先の課題であるから、被告会社がこうした点検の作業に取り組むこと自体は当然正当といえる。原告らは稼動中の踏切を横断する許可を受けていたことを主張し、互いに譲らず負傷、さらにはこれを契機とした本件作業の命令につながり、話が大きくなったものである。

本事件の根底には、労使間の対立、相互不信感があったものと思われるが、双方聞く耳を持たずといった調子で罵倒しあう姿は、職員同士の対立だけにとどまらず、乗客の安全にまで及びかねないことを十分に認識してほしいものである。

 1-7-2.女性従業員の無能ぶりをからかい解雇〜大阪(運送会社)女性従業員いじめ退職事件事例

(概要)

運送業を営む被告の社長は、入社まもない女性従業員Bと面談し、原告から仕事ができないと言われたこと、経理事務3級を持っているのにどうしてそんなことがわからないのかと馬鹿にされたこと、ことあるごとに顎で指示され、露骨に邪魔者扱いされたことを訴えられ、退職の申し出を受けた。また同社長は、女性従業員AとBから、原告に「他の人が断ったので仕方なく採用された」などと言われたと訴えられた。その後同社長は、原告、AおよびBを読んで仲良く仕事をするよう促したが、Aはこれまで原告にさんざんいじめられてきたこと、Bは原告からあまりに失礼な振る舞いにあったことから、共に我慢が出来ないとして退職した。

被告は、原告がAおよびBをいじめによって退職に追い込んだこと、ジムのスキルが低いことなどの理由で普通解雇したところ、原告は本件解雇を無効であるとして、労働契約上の地位の確認と未払い賃金の支払いを請求した。

(判決)

原告とAおよびBとの間に感情的なトラブルがあり、その原因の一端が原告の両者に対する言動にあったことがうかがわれるが、原告は両者の苦情に関わる事実を否定し、あるいは歪曲されていると主張していること、苦情に関わる事実関係審議について、被告は原告あるいは他の職員に対して確認をしたとはみとめられず、上記苦情に係わる事実があったことを証する的確な証拠があるとはいいがたいこと、原告の直属上司も、AおよびBからの苦情について、原告に注意指導等を行ったとは認められないことが認められ、これらの点からすると、原告のAおよびBに対する言動に多少配慮に欠ける点があったことは否定できないものの、原告が両名に対していじめ等の行為を行っていたとまで認めることができない。

また、仮にAおよびBの申し出に係る原告の言動があったとしても、被告は当該事実について、AおよびBの言い分と原告の言い分を十分聴取したうえで、原告の態度および職場環境の改善等を図るべきであるところ、被告において、原告や他の職員に対して事実関係の調査等を行ったとは認められず、また原告だけを個別に呼んで、苦情の内容をあげ、同人の言い分を徴収した上で、注意指導する等の措置を取った事は認められない。また、原告の事務のスキルが低いことも認められない。

以上からすると、本件が少人数の事務所におけるいじめが問題となった事案であること、原告の行動に苦情を訴えていたAおよびBが入社後短期間で退職したことを考慮してもなお、本件解雇には合理的な理由があるとはいえないから、無効と言わざるを得ない。

(解説)

原告は、女性従業員のA、Bにたいし、いじめや失礼な言動を繰り返し、その結果両者とも入社3ヶ月程度で相次いで退職したものであり、退職の原因を原告が自ら作ったことは間違いないと思われる。ただ、直属の上司からのいじめとはことなり、A、Bにとっては逃げ場があり、社会通念上、退職にまで追い込まれるほどのいじめかどうか疑問が残る。

本件の場合、被告が原告を解雇するにあたって十分な調査や原告に対する注意・指導を行っていなかったことが、解雇無効とする主な原因となっている。したがって、使用者は従業員に対し何らかの処分をするにあたっては、その事実関係を正確に把握し、必要な注意・指導を行うことが不可欠で、それを怠った場合には処分が無効とされることを本判決は示している

 1-8.職場の仕事から離れたところの事例

 1-8-1.市議会傍聴での非礼行為を理由に懲戒解雇〜ごみ収集会社記者会見等解雇事件事例

(概要)

新聞に、「営業廃棄物を不正搬入」との見出しで、市の廃棄物運搬業者が、処理手数料が有料である営業廃棄物を一般家庭廃棄物に混入し、市に支払うべき手数料を免れていたとの記事が連日掲載された。

廃棄物の収集。運搬及び処分を業とする会社(被告)の労働者(原告)らは、市議会を傍聴した後議長と会見し、翌日記者会見をして、市役所や警察がゴミ混入問題を取り上げない旨発言した。その翌日、被告は原告らが欠勤し、営業妨害ともとれる言動で被告を罵倒し、市や市議会に迷惑をかけ、会社の信用を失墜させたとして、原告ら3名を懲戒解雇した。さらに被告は予備的に、原告らは無断で他の組合員を扇動して職場放棄したこと、不正なゴミ収集をビデオ撮影して新聞社にもちこんだこと、議会で非礼な発言をして会社の信用を毀損したこと、記者会見を行って虚偽の事実を陳述し、会社の信用を毀損したこと等を理由として普通解雇を通知した。

これに対し原告らは、懲戒事由の事実は無いこと、即時解雇は労基署長の認定が必要であるところ、被告はこの手続きをしていないこと、原告らに弁明の機会を与えていないことなどを理由に、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。

(判決)

議会閉会直後の発言の趣旨は、市長がゴミ混載問題を放置して逃げているというものであり、市長に対する侮辱的な趣旨を含む上、傍聴席から大声を発するという態様であって、非礼と言わざるを得ない。

原告らはその発言をしたものでないにせよ、その一連の行動を総合的に見ると、被告の従業員としてはいささか軽率、不適当であったと言わざるをえない。しかし、原告らの議会傍聴の目的は、ゴミ混入問題の報道があった後、市の対応を知ることにあったのであるから、いわば偶然の結果と言うべき市長ないし市に対する非礼の責任を原告に負わせるのは酷というべきである。

記者会見では、被告が本件混入を指示したとか、本件混入について口止めした等、被告の不正を誇張して記者に伝達したことがうかがわれるが、これら発言の主体は原告らではなく、原告ら自身は記者会見に列席したに留まるものであるし、ゴミ混入及び不正の利益については事実の伝達と言わざるを得ない。そうすると、原告らの上記各行為は、いささか軽率な面があったものの、混入を回避すべき体制を作ってこなかった被告にも責任の一端があると言うべきであり、また新聞報道以来、結果的には被告の営業実態が是正、改善された面も否定できないから、解雇に処すべき非違行為があったとまで言うことができない。

(解説)

原告らは、自らが勤務する会社(被告)が、営業廃棄物を一般家庭ごみに混入し、不正な利益を得ていることを疑い、これを被告に確認しても納得いく説明がなかったことから、市議会傍聴により真実を知ろうとしたものと思われ、その動機において批判されるべきいわれはない。

被告は原告ら個々の言動を十分に調査することなく解雇を言渡したものであり、その手続き、被告自身のゴミ購入の関わり等からすれば、本件解雇が無効とされたことは妥当な判断といえる。

会社としては、正面から向き合って事情説明し、改善すべき点は改善することが必要である。不正を指摘した従業員を不利益取り扱いすることは許されない。

 1-8-2.「タバコ臭い」と扇風機で送風〜消費者金融会社部長いじめ事件事例

(概要)

原告A、同Bおよび同Cは消費者金融を業とする被告会社で債権回収等に従事する従業員、被告は原告らの上司(部長)である。

被告は、原告Bを激しく叱責し、その上司に対しても「てめえ、このやろう」、「責任をどう取るんだ」などと叱責したうえ、原告Bに、今後の過失についてはいかなる処分もうける覚悟である旨の文章を提出させたほか、雇用契約を更新しない旨通告した(結局1年単位が3ヶ月単位に短縮され、雇用契約は更新された)。

被告は原告Cに対し、その妻について「よくこんな奴と結婚したな、物好きもいるもんだ」と揶揄し、事務所の席替えの際、「うるさい」と言いながら原告Cの背中を突然殴打した。さらに被告は、原告Cに貸付金の回収を迫り、イスに座った原告Cのひざを蹴った。

被告は心臓発作を避けるためたばこのにおいを避けていたところ、原告Aおよび同B(原告Aら)をたばこくさいといって扇風機を原告Aらにむけて送付し続けた。被告は1ヵ月後、さらに扇風機2台ないし3台を原告Aらに直接当て、原告Aが出勤すると「ニコチン臭い奴が来た」などと言って送風し続けた。原告Aは次長に対し送付をやめるよう訴えたが、次長がこれに取り合わなかったところ、原告Aはその直後に抗うつ状態により一ヶ月の自宅療養を要する旨の診断を受け、1ヵ月間休職した。

原告らは、被告および被告会社に対し、原告Aについては治療費、休業損害、慰謝料合計336万円余を、原告Bおよび同Cについては、それぞれ慰謝料200万円を連帯して支払うよう請求した。

(判決)

  • 原告A及び同Bにたいして扇風機の風をあてた行為について

被告が両原告に対し、時期によってはほぼ毎日扇風機の風を当てていた行為は被告が心臓発作を防ぐため、タバコの匂いを避けようとしたことを考慮しても、喫煙者である両原告に対する嫌がらせの目的を持って、長期間にわたり執拗に体に著しい不快感を与え続け、両原告に著しく大きな精神的苦痛を与えたものであるから、両原告に対する不法行為に該当する。

  • 原告Aに対するその他の行為について

被告は、自分の提案した業務遂行方法を原告Aが採用していないことを知って、弁解の機会を与えずに強く叱責したうえ、どのような処分にも異議を唱えない旨の始末書を提出させた。また被告は、原告Aの発言に対し、「お前はやる気がない、明日からは来なくていい」などどなり、これは業務上の怠慢に対する必要かつ相当な注意である旨主張するが、これらの行為は原告Aに雇用に対する著しい不安を与えたものである。また被告は、他の従業員が多数いる前で、部下を大声で、ときには有形力を伴いながら叱責したり、手当なしの残業や休日出勤を強いるなどして、著しく一方的か威圧的な言動を部下に強いることが常態となっており、被告のもとで働く従業員は退職を強要されることを恐れ、それを受忍することを余儀なくされていたことが認められる。

このような背景事情に照らせば、被告による原告Aに対する上記行為は、社会通念上許される業務上の指導を超えて、原告Aに過重な心理的負担を与えたものとして、不法行為に該当すると言うべきである。

  • 原告Bに対するその他の行為について

被告は、顧客の信用情報に係る報告が信用情報機関に行われていなかったことについて、「馬鹿野郎」、「給料泥棒」などと原告Bおよびその調子を叱責し、さらに原告Bに「給料をもらっていながら仕事をしていませんでした」との念書を提出させた。これらの行為は、原告Bに多大な屈辱感を与えたと言うべきである。そして、従業員が被告の一方的かつ威圧的な言動に強い恐怖心や反発を抱きつつも、退職を強要されることを恐れて、それを受忍することを余儀なくされていたという背景事情にも照らせば、被告による原告Bに対する上記行為は、社会通念上許される業務上の範囲を逸脱して、原告Bに対する不法行為に該当する。

  • 原告Cに対する行為について

被告が事務所席替えの際に原告Cの背中を殴打した行為、面談の際に原告Cの足をけった行為は、何ら正当な理由もないまま、その場の怒りにまかせてしたものであるから、違法な暴行として不法行為に該当する。また被告の原告Cの配偶者に関する発言は、被告の言動を恐れて受忍を余儀なくされていたことに照らせば、原告Cにとって自らとその配偶者が侮辱されたにもかかわらず何ら反論できないことについて大いに屈辱を感じたと認めることができる。そうすると、被告による当該発言は、昼食時の会話であることを考慮しても、社会通念上許容される範囲を超えて、原告Cに精神的苦痛を与えたと認められるから、原告Cに対する不法行為に該当する。

原告Aは被告から扇風機の風を頻繁に当てられ、自重が真摯に対応しなかったことから抑うつ状態により一ヶ月間休職した経緯に照らせば、原告Aの心療内科等への通院及び休職は、被告による扇風機による風当てによるものとして相当因果関係が認められ、治療費及び休業損害のほか、慰謝料は60万円を持って相当と認められる。原告Bは被告から扇風機の風を不法に浴びせられるとともに、念書の提出を強いられたところ、これらの不法行為の態様等を総合すると、被告の不法行為による慰謝料は40万円をもって相当と認められる。原告Cは被告から2回にわたって殴打されるとともに、侮辱的な中傷を受けたものであり、これらの不法行為の態様等を総合すると、慰謝料は10万円を持って相当と認められる。上記被告の不法行為は、被告会社の事業の執行に際して行われたものと認められるから、被告会社は被告の不法行為について使用者責任を負う。

(解説)

被告は、元来パワハラ傾向の強い人物とみられ、被告は原告ら3人にとどまらず、原告らの上司を含め相当多数にのぼるようである。

原告らの行為のうち、叱責に値すると思われるのは原告Bによる顧客に関する信用情報の報告を怠ったことぐらいのもので、しかし「給料泥棒」との罵倒や、念書の提出などは、原告Bの人格を傷つけるものとして到底許されるものではない。

業務上の必要よりもいじめ自体が目的ではないかとさえ感じられる。また原告Cに対しては、物理的な暴力を加えているだけでなく、その妻について揶揄している。ほかの事件でも配偶者等近親者に絡む罵倒、揶揄等の行為が見られるが、こうした行為は特に本人の人格を傷つけるものであることを、部下を持つ立場にあるものは深く認識すべきである。

さらに被告は、真冬に扇風機で送風し、特に原告Aの心身を傷つけたが、体がニコチン臭いという理由で、職場という逃げ場がない中で、嫌がる部下に送風しつづけることは、場合によっては傷害罪にすらなりかねない重大な不法行為といえる。

1連の行為を見ると、業務上必要な要素は非常に希薄であり、もっぱらいじめを楽しんでいると感じられるところ、その上司らが被告の狼籍について注意をした形跡が見られないことは、会社の体質を表しているようで恐ろしい。

 2.実際パワハラを受けたらどうしたら良いのか

パワハラを受けた後でどのような行動をしたかという質問に対し、「何もしなかった」が46.7%で一番多い回答でした(参考:職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書)。「何もしない」ではまず解決に向かいません。自分自身のことを考え、勇気を持って行動を起こしましょう。以下のことを行いましょう。

 2-1.どんなことをされたのか記録を残す。

パワハラと思われる行為をされた場合は、いつどこで誰が何を何のためにしたのかを記録しましょう(5W1H)。後々の事実確認などで有効なので、メモや録音など最適な方法で記録を残すことをお勧めします。

 2-2.身近な周りに相談する

 パワハラは我慢していても解決しません。それどころかエスカレートする可能性があります。一人で悩まず、まず同僚や上司に相談しましょう。周りの協力を得ることで、パワハラを行う本人が自らの行為に気づく場合があります。

 2-3.会社の窓口や人事担当者に相談する

上司に相談できない場合は、人事部や社内相談窓口に相談しましょう。会社等の組織は、相談者が不利益にならないよう、プライバシーの確保を配慮することを求められています。

 2-4.外部の相談窓口に相談する

社内に相談窓口がない場合や、社内では解決できない場合は、外部の相談窓口に相談しましょう。参考までに、相談機関を上げておきます。

 

メンタルヘルスケア

 まとめ

様々な裁判事例を見ていただきました。気になる裁判はあったでしょうか。中には完全にパワハラであるものから、一見パワハラと言えそうだが、内部事情によりパワハラとは言えなかったり、そのまた逆もあります。

今回は第一審の判決のみのものでしたが、控訴審で逆転しているのもあり、裁判官や証拠によって、判決が変わるものもあります。それだけ、パワハラというものは判断が難しいと言えるでしょう。

もしあなたが、パワハラを受けていると感じるのであれば、我慢する必要はありません。

しっかりと記録をとり、上記の相談窓口に相談しましょう。なお、職場におけるハラスメントでは、モラハラとパワハラを混同しているケースがほとんどですので、詳しくはパワハラとモラハラの違いとは?職場で確認したい特徴と対策を参考にしてください。

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